国土交通省では、社会保険加入・働き方改革規制逃れを目的とした一人親方化対策、一人親方の処遇改善対策等に関して実効性ある施策を検討するため「建設業の一人親方問題に関する検討会」を設置しました。
 今般、第1回目の検討会を6月25日(木)に開催し、技能者の更なる処遇改善に関する取組を進めます。
–国土交通省–

国土交通省は、建設会社(法人)が「社会保険加入」や働き方改革による「長時間労働規制」から逃れるため、技能職、簡単に言えば職人と同じように労働ができる正規雇用者などの社員(従業員)に一人親方や個人事業主として独立をさせる、もしくは勧め「一人親方」なのに、社員のようにして働かせることに対し違法性があるちし、本格的に対策に乗り出します。
さらに、今年の夏を目標に、社会保険加入に関する指導とともに、ガイドラインを改定、適切な雇用促進を目指すとのことです。

法人はそこで働く人の家と同じ。維持するのが大変な理由と社会保険の仕組みを見てみよう!

当部会から一人親方の労災保険(以下特別加入と言います)へ加入いただいている方は、皆様が「一人親方の労働者性」をもって「一人親方」として存在し、一生懸命働いています。その方たちから見て「偽装一人親方」というこの「偽装」という言葉は、あまり気持ち気持ちいいものではありません。

一人親方という表現は、江戸時代に発症した列記とした素晴らしい言葉です。
見習い→職人→一人親方→親方と階級が上がっていくという階級制度。
親方になる一歩手前ですが、親方と呼ばれるには大変な経験と技量と経営力があるということでしょう。

法人と個人の違い

個人とは、一人一人のすべての「人・人間」を指します。日本で居住し生活していく以上、税金は支払わなければなりません。
生きていくために必要な3大要素である「衣・食・住」ですが、衣料を買ったり(裸では歩けません)食べたり(食べなければ死んでしまいます)住む場所を確保したり(公園や川沿いにすんだら捕まります)するわけです。そのような基本的な活動に対しても「税金」というのはついて回ります。

法人(株式会社や有限会社、合同会社等々)とは、法的に認めた「人・人間」という意味です。
上記で述べたように、個人でも国に支払っている各種「税金」があると思います。
それと同じく、法人も「人」ですから、同じように税金を支払わなければなりません。

例を見てみましょう。

市民税→法人市民税
県民税→法人県民税
所得税→法人所得税

法人を支えていくためには、役員(社長や専務や常務等々)や従業員(正規雇用者や非正規雇用者等々)が法人という人の中で働いています。
まるで、家を支えていく家族みたいですね。
家長からしてみれば、自分も税金を払い、さらに家があるだけで同じ税金をはらっているような感じです。

法人は支えてくれている方たちに社会保障制度のための税金を折半、時には全額支払うという義務が発生します。これが、皆様が言う「社会保険」です。

広義の社会保険と狭義の社会保険

社会保険は広義の意味では「被用者保険」「国民健康保険」とに分けられます。
そして、狭義の社会保険といわれるものは「被用者保険」の中で「健康保険・厚生年金保険・介護保険・労働保険」に分けれられ、さらに労働保険は「雇用保険・労災保険」に分けれらます。
これが本当の被用者保険の社会保険です。

そして、保険ですから保険料がとられます。(保険税ともいわれ、いわゆる税金です)支払いはだれがしているかを理解していきましょう。

  • 健康保険(協会けんぽや会社での組合保険)ー折半(法人50%・社員50%)
  • 厚生年金保険(厚生年金・基礎年金)ー折半(法人50%・社員50%)
  • 介護保険(40歳から64歳で健康保険料に加算)ー折半(法人50%・社員50%)
  • 雇用保険ー法人>社員(事業内容により比率が違う)
  • 労災保険ー法人全額負担(法人100%・社員0%)

法人に勤めている従業員の方が「手取りが少ないんだよね」と言うことがよくあります。通常は「支給額」を見るわけですが、なぜか手取りで話をしていることが多い。

法人が労働対価として払った本当のお金は「総支給額」です。そこから、従業員が負担する分の社会保険料が引かれていますが、法人はそれ以上の社会保険料を負担し支払ってくれていることを理解しましょう。

ちょっと一息。可処分所得(かしょぶんしょとく)を覚えておきましょう

この言葉は大切なので覚えておきましょう。
例えば、1月1日から12月の末までの労働で得た収益を「収入・営業利益」といいます。
そこから、収益を得るために必要なお金を「経費・損失利益」といいます。
収入から経費を差し引いたお金を「所得」といいます。

収入-経費=所得

そして、このすべての所得から支払いが義務付けられている「税金・社会保険料」をさらに引いて手元に残った自由に使えるお金のことを「可処分所得」といいます。

所得の中でも、個人が「自由にその所得を処分することが可能」です、という意味です。

偽装一人親方が生まれてしまうその理由

このように、法人はそこで働く方たちへ給与支払いをしていますが、その給与の他に「社会保険の5種類の保険料の半分もしくは多め、全額」を負担してくれています。給与明細から引かれている社会保険料は、個人が負担する分だけを引いてます。ですから、その約倍以上は法人が納めてくれているというわけです。

ここまで読んでいただければわかっていただけるかと思いますが、従業員一人に支払う社会保険料だけでも法人には相当な負担がかかっています。

法人は社会保険料を支払うこと自体義務化されている

法人になって従業員を抱えた以上は、その従業員の労働が支払い給与に見合っていようが見合っていないであろうが、支払う義務があります。

つまり、法人の代表者(経営者)は今回のような事態で経済的危機を迎えても、社会保険料の支払いから逃げることはできません。

そこで、経営者は考えます。
経営が大変で、このままでは従業員に給与が払えなくなってしまう。でも従業員は理由もなく「解雇」できないし、給与も社会保険料も払わなければいけない。
仕事は少ないがある。でも継続的に仕事が続かない。
このままでは、法人の存続にもかかわる。倒産すると従業員の家族まで路頭に迷わせてしまう。

手に職を持っているものを個人事業主や一人親方として独立を勧めて、うちの仕事を専属的にやってもらう。
それなら、社会保険料を払わないで済むし、仕事も専属で働いてもらえる。

このように、手に職がある正社員を退職させ、個人事業主や一人親方にして専属的に仕事をさせる。
これが「偽装一人親方」です。

雇用継続ができるならやっている

今まで説明したように、法人から従業員に対する支払いは給与だけではなく、社会保険料やその他の経費などかなりの負担を強いられます。しかし、それを理解して雇用しているはずだから、という理由で支払いを軽減してくれるなんてことはありません。


社会保険料を支払いたくても支払えない状況になったら・・・・想像してみてください。


雇用を継続できるなら、法人は雇用し続けます。なぜなら、社員は法人(会社)の宝です。
それが危機的状況下になり、さらに経営が悪化し法人は四苦八苦します。
経済は様々な要因で絡み合ってできていますから、たった一社の企業努力だけではどうしようもできないこともたくさんあります。
法人が倒産すると、従業員本人だけではなく、その家族や関係者までも路頭に迷うわけです。
受け皿が見つかればいいのですが、その間は雇用保険でしのぐしかなくなります。
そうはいっても違法な離職勧告は絶対にしてはいけません。

一人親方の労働性を確認

偽装一人親方という言葉自体、本当の一人親方にとって、大変不快かと思います。

今一度、下記を参考にして、自分は本当の一人親方であることを確認しましょう。

  • 依頼先から仕事を頼まれても自分の判断で断ることができる
  • 仕事が終わった時に予定外の仕事を求められても断ることができる
  • 依頼先の就業規則や服務規律の適用を受けていない
  • 依頼先から就業時間を決められていない
  • 当日の仕事が早く終わった時は自分で見つけた他の現場仕事ができる
  • 依頼先から工程調整、事故防止のための指示以外、日々の仕事内容、方法は自分で決めている
  • 自分の都合が悪くなった時には、自分の判断で代わりの者を探し仕事をさせられる
  • 代わりの者が仕事をしても、依頼先からの報酬は自分が受け取る
  • 現場での通常のミスや作業遅延によっての損害は自分が負担している
  • 現場で必要な機械や器具(手元工具は除く)は自分の物を持ち込んで仕事をする
  • 仕事で使う材料は自分で調達している
  • 仕事による報酬は工事の出来高具合で工事代金や賃金でもらう
  • 一日当たりの「労働時間給」で報酬をもらっていない

このように、一人親方は労働に対して自分の裁量や判断で仕事をしています。会社に依存していないため、自分の裁量や技量、営業力すべてを求められますが、稼ぐのも自分次第です。
自由である反面、その責任は被雇用者とは比べ物になりません。
ミスをしても、体調が悪くても、自分の責任で業務を遂行していきます。稼ぐも稼げないもすべて自分。だれかの所為にはできません。
簡単に言えば、法人の社長と全く同じです。

偽装一人親方を作らないために

偽装一人親方というのは、法人に雇用はされていないが、特定の法人だけの仕事で、時間の制約から仕事の制約(ほかの法人の仕事はできない)道具類も自分ではなく、就業規則にも縛られている方です。さらに、時間給のように賃金支給がされている方です。

では、偽装一人親方を作らない作らないためにはどうしたら良いのでしょうか?

それは、本物の一人親方になってもらえばいいわけです。

今まで従業員で安定していた給与をもらっていた方、法人に守られていた(知ってか知らずか)方が、急に一人親方になるのはかなり難しいですよね。
ですから、従業員で本当に一人親方になりたい、したい方がいたら、個人事業主としてのメリットとデメリットをわかりやすく丁寧に、理解できるまで説明してください。
それで本人が「やってみたい」と納得できるようであれば、業務委託契約となります。
ただ、この業務委託契約の内容や、退職関係など、いろいろ難しい内容となるため、そこは専門家へ相談した方が良いでしょう。(社会保険労務士・行政書士・弁護士などです)

自分の考えでむやみに一人親方を作らないでください。
また、一人親方(事業主)として、人を育て上げる努力も必要でしょう。

まとめ

偽装一人親方の問題。
解決するのに一番簡単なのは、法人に社会保険料の負担をさせないこと。本当はこれが一番です。

これは、現状の日本の法律下では無理です。

他は社会保険料自体の金額を落とすこと。

少子高齢化の日本では難しいでしょう。

法人が従業員のために社会保険料やその他支払うべき税金の計算。そしてもろもろの経費計算から何もかもを行い、給与から天引きする。至れり尽くせりで、こんなことをしているのは先進国でも「日本」だけです。ですから、自分が納付している税金への関心も薄れてしまうのも事実です。

せっかく世界でも類を見ない素晴らしい制度である「社会保険制度」ですから、破綻はさせてくないですよね。

何度も言いますが、安易に一人親方になることを勧めないように。
一人親方は素晴らしい業務形態ですが、だれもかれもができるわけではないですし、向き不向きもあります。

法人の方も、必ず専門家に相談し、従業員の方ともよく話をしてみてください。