厚生労働省のホームページに記載されている内容を読んで、勘違いなされる方が増えています。
労災保険の成立手続きとは何か?雇用契約が必要なのか?

それでは解説していきましょう!

労災保険成立手続きは、一人親方の働き方で変わります

厚生労働省のホームページをご覧になった方が、驚いて当団体に相談が来ています。

大きなオレンジ色の字で「形式的に請負契約等により従事する個人事業主等でも」と注意喚起されていて、小さな字で(実態として労働者である方を、事業主が使用した場合は)と記載されています。
再度大きなオレンジ色の文字で「労災保険の成立手続きを行う必要があります」とされています。

厚生労働省としては、注意喚起としてこのように記載しているとは思いますが、人間の目は色がついて他よりも大きな文字を「見出し」として見てしまう心理が働きます。
そこで強調文字だけを読んで勘違いが生じているのだと思います。

では、一人親方でも個人事業主でも労災保険成立手続きを行うとはどういう意味なのか解説していきましょう。

形式的に請負契約等により従事する個人事業主等とは

形式的に請負契約等とはなどういう事でしょう。

簡単に言ってしまえば、建設にかかわる工事を下請けである一人親方や個人事業主へ発注する際に、双方でその工事の契約を「書類」で交わすことを表しています。

例えば、株式会社A建設があり、下請けである一人親方のCさんで屋号がC塗装店とします。

株式会社A建設は、外装塗装工事を一人親方のC塗装店のCさんへ発注したとします。

その際に通常は発注書や受注書、そして工事請負契約書を双方で交わして、初めて工事の契約が成立します

日本は法治国家ですから、「契約書」という書類がなければ、本当に工事を発注し受注したかなどを証明するものが無いということになりますから、一人親方でも個人事業主でも、工事請負契約書はできる限り交わしましょう。
これは、一人親方を守るだけでなく、元請け様をも守ることになるからです。

工事請負契約書の一例

このような契約書等の書類を交わすことを、厚生労働省では「形式的に請負契約等」と表しています。

そして、この書類を元に、仕事を行う者を「従事する個人事業主」として表しています。

すでにお分かりいただいているかと思いますが、個人事業主と一人親方は細かく言えば違います。ここでは説明を省略いたします。

労災保険の成立手続きは雇い入れした時の義務

特別加入制度も労災保険(労働者災害補償保険)で、保険の性格上違いはほとんどありません。列記とした「社会保険」ですよね。

では、労災保険の成立手続きとは何なのでしょう。

これは、【雇い入れをしている組織と同じような扱いとなりますから、労災保険と雇用保険へ加入させなければいけませんよ】という意味です。

会社員の場合は必須ですよね。パートやアルバイトの場合は、その労働時間や働き方(労働性)によっては、皆様がいう「社会保険」へ必須加入となります。

その際には、会社側が雇い入れしていると見ますから、雇用保険や労災保険へ強制加入となります。もちろん、労災保険は会社側が100%負担、雇用保険は会社側の方が負担率が大きくなります。

  • 健康保険(協会けんぽや会社での組合保険)➡折半(組織側50%・社員側50%)
  • 厚生年金保険(厚生年金・基礎年金)➡折半(組織側50%・社員側50%)
  • 介護保険(40歳から64歳で健康保険料に加算)➡折半(組織側0%・社員側50%)
  • 雇用保険➡組織側>社員側(事業内容により比率が違う)
  • 労災保険➡組織側全額負担(法人100%・社員0%)

このように、雇い入れした時には必須な社会保険加入ですが、組織も負担しなくてはならず、かなりの経済的負担となります。労災保険に関しては、組織側が全額負担となります。

実態として労働者である方を、事業主が使用した場合

このように、実態として事業主が、もしくは組織が、一人親方が
下請けや仲間や友人に「労働者として認められる働き方」で仕事を依頼し使用した時には、保険関係成立届を提出し広義の社会保険へ加入させないといけませんよ、という注意喚起でした。

労働者性とは、従前に説明した通りですが簡単に分けると以下のようになります。

  • 使用従属性に関する判断
    ●指揮監督下の労働であるかどうか
    ①仕事の依頼や業務への従事の際の指示など諾否(だくひ)の自由があるかどうか
    ②業務を遂行する上で指揮監督されるかされないか
    ③業務する際に拘束(こうそく)されるかされないか
    ④代替性(だいたいせい)があるかどうか
    ※諾否とは、承諾するかしないか
    ※拘束とは、行動の自由を縛ること
    ※代替性とは、それに見合うもので替えること
    ●報酬の労務対償性
     依頼した、または依頼された仕事に対しての報償の提供方法や理由
  • 労働者性の判断を補強する要素
    ●事業者性があるかどうか
    ①機械や器具等の負担の関係はどうなっているのか
    ②報酬の額の性格性はどうなっているのか
    ③その他
    ※組織等の服務規程に従っているかどうか、各種手当があるかどうか等々

簡単にと言いましたが、ここを正確に理解するのは難しいですよね…

ちょっと一服 過去の判例を一つ見てみましょう

一人親方か労働者かの判例

【 簡易的な概要】
大工工事業の一人親方が工務店から仕事を請け負い、某建築物の内装仕工事を行っていた際に、指を切断するケというケガを負ってしまった。

【争点】
大工本人に法律でいう労働者(労働者性)があるかどうか

【内容】
大工側が請け負い先の「労災保険」を使うように訴えた

【判決】
請負先の労災保険は使用できない。
労働基準法上の「労働者」としては言えないため、労災保険の不支給は妥当である。

【ポイント】
内装仕上げの仕様等において細かな指示を受けていたが、工法や作業については自分の判断で行えた。作業時間も近隣住民への配慮から従うように言われていたが、現場監督へ事前に連絡を入れておけば休むことも自由であり、他の元請けから依頼されていた別の仕事をすることも自由であった。大工道具は自分のものを使用、ただしこの工事に限り必要な特殊工具等は、この工事に限られたもので、元請けから借りていた。元請けの服務規程に従うよう強制されていたわけでなく、まして有給休暇や退職金制度などの適用ではなく、社会保険も大工個人が「国民健康保険」の被保険者であり、元請けの社会保険への加入ではなかった。大工への報酬は給与(所得税の源泉徴収対象)ではない。

【解釈】
この裁判は、大工が元請けを訴えたケースです。
元請けの会社の労災保険で療養補償や休業補償を受けられるように裁判を起こしました。
判決は、元請けの労災保険支給を却下(使わせない)という事です。
つまり、労働基準法でいう「労働者」ではなく、大工は「一人親方ですよ」って明確に判断した判例です。

先に説明した通り、「一人親方の労働性」と、労働基準法でいう「労働者」には大きな違いがあることがわかると思います。

一人親方は職人です。基本的には元請けから仕事を依頼されて、仕様等が細かく指示されても自分の技量で工法等は選べますし、道具類も自分持ちですよね。近隣住民のことを考慮すれば、時間指示されるのは当然です。元請けに苦情が来てしまいます。でも報告を入れれば、休むことも自由です。このような働き方をする方は、必ず「労災保険の特別加入制度」に加入しましょう。

まとめ

厚生労働省、国土交通省のサイトに「一人親方と請負契約でも労災保険成立手続きが必要な場合がある」と記載されていたらびっくりしますよね。

説明した通り、一人親方といっても、元請けと工事請負契約書をとっても、その仕事に従事した際の「働き方」を見ているわけです。

一人親方は、「職人さん」ですから、元請けの就業規則や服務規程には縛られないというのが基本。

道具類も、その職種によっては自分が準備するのも当たり前ですよね。でも、その仕事現場にしか使わない特殊工具類は、元請けが貸与してもいいんですね。

だからと言って、何事にも自由だ!という事ではなく「一般通念上の事」は守っていきましょう。