建設業界に大きな変化をもたらす「改正建設業法」が、2025年12月に全面施行されます。
その中心にあるのが「労務費の基準(標準労務費)」です。
国土交通省は全国10地区で説明会を実施し、建設会社・建設業団体・発注者・自治体などに周知を進めています。
ここでは、改正の背景から「標準労務費」の意味、そして企業が今後取るべき対応までをわかりやすく解説していきます。

改正建設業法の全体像

建設業法の改正は、単なる制度変更ではなく、建設業界の労務環境や契約慣行を根本から見直す大きな転換点です。

まずは、どのような改正が行われるのか、全体像を整理しましょう。

建設業法は、建設業の健全な発展と公共性の確保を目的とする基本法であり、国土交通省が所管しています。
2024年の法改正を経て、2025年12月には「全面施行」として新ルールが定着します。

今回の改正の柱は以下の3点です。

特にの「標準労務費」は、今後の見積や契約の元となるルールです。
これを理解せずに契約を行えば、行政指導の対象となる可能性もあります。

なぜ「標準労務費」が必要なのか

新制度は突然生まれたものではありません。背後には長年の業界課題があります。
その背景を理解することで、改正の意義が一層明確になります。

建設業界は長年にわたり「人手不足」と「賃金水準の低迷」に直面してきました。
技能労働者の平均年齢は年々上昇し、若年層の参入が進まない大きな要因の一つに「収入の不安定さ」があります。

従来の請負契約では、受注競争の激化により工事代金が切り下げられ、そのしわ寄せが労務費に及んでいました。
結果として、技能者(職人や一人親方)の賃金が適正に確保されず、人材確保が困難になる悪循環が続いていたのです。

こうした状況を打開するため、国は建設業法を改正し、「最低限守るべき労務費=標準労務費」を制度化しました。

標準労務費とは?(最重要ポイント)

今回の改正の核心部分が「標準労務費」です。
これは建設業界にとって新しい概念であり、すべての実務者が理解しておく必要があります。

定義

「標準労務費」とは、建設工事に従事する技能労働者の賃金水準を適正に反映させるために、国土交通省が示す基準額を指します
法律上は「改正建設業法第19条の2」において、請負契約に必要な費用として労務費を基準額以上とすることが規定されます。

技能者とは?

大工、とび工、鉄筋工、型枠工、配管工、電気工、左官、塗装工 など、特定の技能を用いて施工品質に直結する作業を担う職人のことを指します。
例えば「鉄筋の組立を設計図どおりに正確に行う」「配管を安全基準に従って施工する」といった高度な知識・経験を要する作業を担います。

単純作業員(雑工)との違い

資材の運搬や現場清掃など、特別な技能を必要としない作業を行う人は、法律上「技能者」には含まれません。
単純作業員も工事には絶対必要ですが、「標準労務費」の算定対象はあくまで技能者であり、雑工は別枠として取り扱われます。

この区別が最も重要です。
もし雑工の人件費を「技能者の標準労務費」と同列に扱って見積を出すと、発注者との間で誤解や契約違反につながりかねません。
注意しましょう。

目的

  • 技能者の処遇改善
  • 適正な工事価格の確保
  • 不当に安い入札や契約を排除

適用範囲

  • 元請(特定元方)と下請のすべての契約に適用
  • 公共工事だけでなく民間工事も対象
  • 技能者の職種・地域ごとに基準額を提示

実務的な意味

標準労務費は「参考値」ではありません。
契約上必ず考慮すべき最低基準です。
これを下回る見積や契約を行った場合、行政指導・勧告の対象となり、悪質な場合は許可取り消しのリスクもあります。

今後のスケジュールと説明会

新制度はすでに準備段階に入っています。
国交省は全国で説明会を開催し、周知を徹底しています。

  • 2025年9月下旬まで:全国10地区(北海道~沖縄)で説明会を開催
  • 2025年12月:改正建設業法の全面施行

説明会では、標準労務費の算定方法や契約実務への反映の仕方が具体的に示されています。
これらの情報を把握していないと、実務対応に遅れをとる危険があります。

実務者が注意すべきポイント

制度を知るだけでは不十分です。建設会社や発注者が実務上どのような対応を取るべきか、具体的に見ていきましょう。

1
見積・契約書の改定

労務費欄を明確化し、標準労務費を下回らない金額を設定する。

2
下請契約の徹底

元請(特定元方)のみならず下請契約にも適用されるため、取引先にも周知する必要がある。

3
社内研修の実施

営業担当者・経理担当者・現場代理人に対して、制度内容とリスクを教育。

4
顧客説明体制

発注者に対して「標準労務費を守る必要性」を説明し、理解を得る仕組みを構築。

標準労務費を下回った見積や契約書を締結すると、行政罰を受ける可能性があります。元請(元方)や発注者側も十分注意しましょう。

東京都・大阪府・宮城県・福岡県の労務単価(例)

本表はあくまで「目安」として捉えてください。
労務単価は 都道府県別職種別に決まるため、実契約・見積では 工事場所の都道府県の最新単価を必ず確認してください。

公表される単価には、事業主の法定福利費(会社負担分)等は別建てである旨が明記されています。
契約・見積では法定福利費等を適切に計上する必要があります。

「標準労務費」は、今後の契約で 下回れない基準として導入される新ルールです(改正建設業法)。
実務では、代表職の労務単価×必要人数・日数+法定福利費等を基礎に、見積・契約へ反映する形が自然です。
国交省は2025年9月下旬まで全国説明会を実施し、2025年12月に全面施行されます。

主要出典(一次資料)

  • 国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
    全国全職種平均 24,852円、算定の考え方、法定福利費の扱い等。
  • 農林水産省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について(主要12職種 全国平均表)」
    主要12職種の全国平均(例:大工 29,019/左官 29,351/型わく工 30,214/鉄筋工 30,071/とび工 29,748/特殊作業員 27,035 など)。
  • 電気工事関係団体資料(JECA等)
    電工の全国平均 26,270円、内装工・ガラス工・塗装工等の最新全国平均推移。
  • 東京都財務局「令和7年3月 公共工事設計労務単価(東京地区)」
    都道府県別確認の参考。
  • (参考)建設業法の“29業種”の区分・定義

東京都・大阪府・宮城県・福岡県における技能者労務単価の比較(令和7年3月適用)

以下の表は、改正建設業法で導入される「標準労務費」の基準を理解するために参考となる、公共工事設計労務単価(令和7年3月適用版)をもとにまとめたものです。
東京都・大阪府・宮城県・福岡県の4地域における代表的な技能者の労務単価を比較しています。

この労務単価は、国土交通省および各都道府県が毎年公表しているもので、1人が1日(所定労働時間8時間)働いた場合の人件費の目安を示しています。
単価には会社が負担する社会保険料などの法定福利費は含まれていないため、実際の見積や契約時には別途計上が必要です。

また、業種と技能者は1対1ではなく、代表的な職種を紐づけて掲載しています。
たとえば「建築一式工事」は大工職、「電気工事」は電工職を例にとり、それぞれの都府県ごとの単価を示しました。

この表を活用することで、地域差・職種差を把握し、見積作成や契約交渉で標準労務費を下回らない金額を確保する重要性を理解できます。

建設業の業種(29種) 代表技能者 東京都 大阪府 宮城県 福岡県
土木一式工事とび工32,900円30,500円34,800円29,900円
建築一式工事大工30,400円29,100円29,800円28,300円
大工工事大工30,400円29,100円29,800円28,300円
左官工事左官33,000円28,800円28,200円24,700円
とび・土工・コンクリート工事とび工32,900円30,500円34,800円29,900円
石工事はつり工31,000円28,500円29,600円27,100円
屋根工事大工30,400円29,100円29,800円28,300円
電気工事電工32,600円29,400円29,900円28,500円
管工事設備工31,000円28,700円29,500円27,400円
タイル・れんが・ブロック工事左官33,000円28,800円28,200円24,700円
鋼構造物工事鉄筋工32,600円30,400円32,300円28,500円
鉄筋工事鉄筋工32,600円30,400円32,300円28,500円
舗装工事運転手(特殊)30,500円27,300円29,300円25,900円
しゅんせつ工事特殊作業員29,900円27,400円29,300円26,700円
板金工事大工30,400円29,100円29,800円28,300円
ガラス工事ガラス工30,000円28,000円28,500円27,000円
塗装工事塗装工34,500円30,500円31,600円29,200円
防水工事左官33,000円28,800円28,200円24,700円
内装仕上工事内装工31,500円29,800円30,200円28,600円
機械器具設置工事設備工31,000円28,700円29,500円27,400円
熱絶縁工事内装工31,500円29,800円30,200円28,600円
電気通信工事電工32,600円29,400円29,900円28,500円
造園工事造園工28,800円26,500円27,300円25,800円
さく井工事特殊作業員29,900円27,400円29,300円26,700円
建具工事内装工31,500円29,800円30,200円28,600円
水道施設工事設備工31,000円28,700円29,500円27,400円
消防施設工事電工32,600円29,400円29,900円28,500円
清掃施設工事設備工31,000円28,700円29,500円27,400円
解体工事はつり工31,000円28,500円29,600円27,100円

出典:国交省「公共工事設計労務単価(令和7年3月適用)」+都府県資料(東京・大阪・宮城・福岡)。

【まとめ】早めの対応が会社を守る

改正建設業法の施行は業界全体の転換点です。
対応の遅れは競争力の低下や行政処分のリスクにつながります。

標準労務費の導入は、建設業界の未来を守るための大改革と捉えていきましょう。
技能者(職人や一人親方)に適正な賃金を支払い、持続可能な建設業界を築くことが目的です。
各企業は、見積基準の見直しや社内教育を行い、2025年12月の施行に備えていきましょう。

また、発注側(職人や一人親方)も理解しないといけません。
なぜなら、この改正建設業法は、元請(特定元方)だけの法改正ではなく、下請(発注側)にも適用されるからです。
「私の方が安価で対応します」
などで、見積や契約を「標準労務費」以下で取り付けると、行政罰のリスクがあります。

双方ともに十分注意していきましょう。

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