事業主の皆様からよくある質問で「工事現場で仕事をしてもらうのに、一人親方を雇ったので労災保険へ入れたい」ということです。
また、一人親方が仕事を誰かに手伝ってもらうときに同じ内容の質問をいただきます。

この質問自体がそもそも間違っていることに気づきましたでしょうか?
一人親方を雇うことは・・・できませんよね?
雇うという本当の意味は「雇用する」とう意味です。

一人親方を雇用したら、その方は一人親方ではなくなってしまうからです。

日本では仕事を依頼するには色々な形態と呼び名があり、大変わかりずらく、依頼する側も「雇っている」と簡単に言ってしまいます。こちらも「雇っている?雇用しているのですか?」と質問を返してしまうこともしばしば。
ここでは、雇用の形態とポイント。特別加入の労災保険「一人親方労災保険」へ加入すべき方のポイントを詳しく解説していきます。

人を雇うということ

人を雇って現場に入れたいけど特別加入の労災保険へ入れられるのか?
人を雇ったので労災保険へ入れられないか?

その際にお聞きするのが、雇用したのか依頼したのか?この違いです。

簡単に言えば、雇用することと雇うこと、仕事を依頼することを一緒にしてしまっているんですね。
また、アルバイトとして使いたいんだけどということも同じです。

雇用とは、労働基準法第15条において法的に定められ、守られています。
「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。 この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」と書かれています。

使用者と労働者は一般的に「雇用契約書」という書面で契約します。当事者間の合意があれば、口頭でも成立しますが(口頭契約)、トラブルのもとになるので、一般的には書面で契約を行います。その中身は、労働基準法にのっとった内容が記述されています。そのうえで労働の対価(時間)としての「賃金」を支払うわけです。
また、労働安全衛生法労働安全衛生規則第43条から第44条により、雇用時の健康診断と年一回の定期健康診断が義務づけられています。

このように、雇用したということは「賃金の確定・労働時間の確定と拘束・健康診断など使用者との労働の書面締結」が必要となります。

人を頼むということは、口頭での約束がほとんどです。
本来は注文書や依頼書、請負書という書類で仕事を頼みますが、頼んだ人は仕事を完成させることを目標としています。ですから、その仕事が完成した時点で契約は終了となります。労働の対価も時間等の賃金とは違い、報酬となるわけですね。

人を雇うということは、雇った側が社会保険のうち、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険・介護保険の加入手続きを行い、支払いも半分もしくは全額支払わなければなりません。しかもすべてが強制加入となります。


人を頼むということは、社会保険のうち国民健康保険・国民年金・介護保険は強制加入ですが、労災保険は任意加入です。そして雇用されているわけではないため、雇用保険には加入はできません。
また、頼まれた側(仕事を依頼された側)が、すべて自分で保険料を支払うのは当たり前のことです。

人を雇った=人を雇用したということになりますので、人を頼んだ、という事とは全く違う事なのです。

短期間のアルバイトやパートは?

アルバイトとパート(パートタイマー)との区別は法律上はありません。
その意味は全く一緒です。
ひとくくりにするならば、パートタイム労働者と言います。

アルバイトやパート(パートタイマー)は、パートタイム労働法という法律で守られており、口約束での労働契約は禁じられています。その内容は、賃金や労働条件の明示をし、労働契約書を取り交わすという、いわば「正社員」となんら変わりません。

ですから、現場で数日アルバイトを使いたいから特別加入の労災保険へ加入させるということはできません。なぜなら、アルバイトは「雇用されている」からです。
アルバイトと依頼主の間には「労働契約」が存在するのが普通だからです。ことばのあやみたいですが「アルバイトみたいに」をアルバイトを使うという意味で言うことが多いようです。

また、労働基準法第24条で「賃金支払いの5原則」という定めがあります。

  1. 現物支給の禁止(通貨での支払い義務)
  2. 全額支払い(分割払いの禁止義務)
  3. 直接支払い(労働者へ直接支払う義務)
  4. 毎月1回以上の支払い(1カ月に1回以上支払う義務)
  5. 一定期日支払い(支払い日の確定をする義務)

これを怠った場合には、労働基準法第120条により罰則規定があります。

アルバイトやパートタイマーは「短時間労働者」といい、法律的には「労働者」ですから、社会保険の強制加入となり、労働保険のうち、労災保険料は使用人の全額支払いとなります。

アルバイトで働いてる、働いてもらっているというのは「短期間しか現場へ入場しない」という意味でしょう。
しかし労働基準監督者や労働局は「アルバイトで」という表現は、労働者とみなすので、社会保険へ加入していますよね、と言われます。

それならば、現場で数日、一人親方に仕事を依頼したので労災保険へ加入させたいというのが本当の意味でしょう。これであれば、問題なく特別加入制度の労災保険へ加入することができます。

従業員を雇っている?

従業員を雇っているという表現も厳密に言うと、間違いです。
従業員というのは、それ言葉自体が「雇用されている者」だからです。
訳してしまうと「雇用している者を雇っている」という意味になります。

また、従業員というこの言葉自体が「通称名」だとご存じでしょうか?

通称名とは、法規に沿ってではないということ。民間企業等が作った名前「造語」ということです。例えば、従業員と言うと何を思い浮かべますか?
〇会社で働いている人たち
〇飲食店やスーパーで働いている人たち
〇アルバイトやパートで働いている人たち

こんな感じでしょうか?
実はこれも根拠のないイメージなんです。

正規社員や正社員、従業員など、明確な違いは一切ありません。会社などの組織で労働し、その対価として「給与」をもらっている方は全部同じです。
公的な言い方は、労働者や被用者や被雇用者などと本当は表します。

質問で「従業員を新しく雇ったんだけど」と言う質問には、正規に雇用をなされたのですか?とお聞きします。

従業員は、雇用された者なため、社会保険の強制加入ですから、特別加入の労災保険には加入することはできませんのでご注意ください。

増加傾向にある外国籍の方たち

一人親方部会グループでも外国籍の方の加入相談が増えてきています。
日本で働く以上、特別加入制度の労災保険への加入は全く問題ありません。
※外国籍の方は「在留カード」などの身分証明書をご用意ください。

企業同士や仕事仲間からの紹介、日本で技術を習得するため現場入場する等々、様々な理由があると思います。
大事なことは、一人親方の労働性として仕事を依頼するかどうかです。派遣労働者の場合は特に注意してください。

派遣労働者の場合には、人材派遣会社が責任を負うとしていますが、全責任を負わせるのには妥当性がないとされ、万が一があった場合には責任分担が発生します。また、派遣労働者は、建設関係のみならず、様々な仕事(業種)につくことも多々あります。
責任の所在を明らかにしてから、現場入場をするようにしましょう。

一番いけないのは、何もないだろという過信の元、労災保険に加入しないことです。
現場入場される場合には、必ず特別加入制度の労災保険加入をご検討ください。

日本での定められている様々な雇用形態

厚生労働省では、様々な雇用形態を定めています。
ここにまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。

派遣労働者(派遣)

労働者派遣とは、労働者と人材派遣会社との間で労働上の契約を結んでいます。例えば、請負会社が現場へ労働者を入れる際に、人材派遣会社と請負会社が労働者派遣契約を結び、請負会社が人材派遣会社へ労働者派遣を依頼します。
つまり、労働者は請負会社の指揮命令のもと労働をしますが、労働対価の賃金は人材派遣会社からもらうことになります。
万が一、工事現場で事故が起きた場合には、人材派遣会社が対処しなければなりませんが、労働派遣法という法律下では、請負会社が責任を負わないという事には妥当性がないとして、人材派遣会社と請負会社が責任を分担することとしています。

契約社員(有期労働契約)

契約社員や非正規雇用者などの言い方をしていますが、あらかじめ雇用される期間が定められている方々です。例えば、請負会社が一人親方を一定期間の労働契約をするのもこの形です。
気を付けなけらばならないのは、一定期間でも「労働契約」をするということは「時間的束縛」と「労働対価を賃金で支払う」という事です。
ですから、労働契約をした以上、一人親方ではなくなるということです。
また、一回当たりの労働契約期間は最長でも3年までです。

パートタイム労働者

アルバイトやパートで働く労働者のことをパートタイム労働者と言います。アルバイトかパートかは「企業側」が区分けをしていますが、労働法上では違いはありません。
正社員と比べ労働時間が短い労働者で、短時間労働者と言います。また、「パートタイム労働法」という法律下でその要件は決められています。
口約束での労働は、労働基準法第15条により禁じられていますので、書面で契約を交わしましょう。
また、労働条件の明示や労働条件の禁止事項、採用規定も厳しく決められていますので、専門家に相談してから書面を作成してください。

短時間正社員

正社員をフルタイム正社員とした場合に、短時間正社員は所定の労働時間や所定の労働日数がフルタイム正社員より短い正社員のことを表します。
そして、①労働期間に定めがない②時間当たりの基本給及び賞与や退職金の算定(計算)方法が同事業所に雇用されている同じ職種のフルタイム正社員と同等であることが定めれれています。

業務委託契約

業務委託とは、請負会社がある業務を依頼し(請負先)、その依頼に対し請け負い(請負元)、依頼された業務(仕事)を請負という形態で働きます。
労働の対価は賃金ではなく、仕事の完成に対しての「報酬」という形で支払われます。
基本的に請負先の指揮・命令を受けない(時間的束縛等)を受けないため「事業主」として扱われます。請負先が請負元へ注文(注文書)をし、請負元は請負契約(請負契約書)を提示、契約となる形です。
これが、一人親方です。
しかし、その労働性によって「労働者」と認められた場合には、労働法規の保護対象となる場合があります。

家内労働者

内職といわれる部類もそうですが、業者から委託を受けて、物品の製造や加工を個人で行う方を言います。こちらも「事業主」として扱われます。法律も「家内労働法」が制定されています。

自営型テレワーカー

注文者から業務の委託を受け、情報通信機器を活用して生活物の作成や役務(業務)の提供をする方です。あくまで個人で行い、自宅や自宅に準じた場所(他人に決められない)で行います。今ではweb作成やプログラム作成等々があります。家内労働者との違いは、情報通信機器を使用して行う業務という事でしょう。

まとめ

特別加入制度の労災保険「一人親方労災保険」へ加入していないと、現場への入場(ここでは建設に携わる仕事)ができないため、元請け様も大変かと思います。労災保険に入っていなかったのは知らなかったと言っても、通用しないからです。

元請け様や依頼主様、一人親方様が仕事を人に依頼するときに注意することは

  1. 従業員なのか(雇用されている)
  2. アルバイトなのか(雇用されている)
  3. パートなのか(雇用されている)
  4. 事業主なのか(雇われていない)
  5. 一人親方なのか(雇われていない)

4.5.の方は特別加入制度の労災保険へ加入する必要があります。

また、一人親方さまから「最近元請けもうるさくなってきて…」ということも聞きます。それは労災事故が起きたら、元請け様どころか、一人親方もその家族も、仕事関係者までも全て大変なことになるからです。

だれもが「おれは事故を起こさないから大丈夫」と思いたいのはわかりますが、世の中100%とということは絶対にありません。
これだけは、100%で言えることですね。