全国で働く一人親方の皆様は既にご存じかと思いますが「高所作業における安全帯に関する改正法」(2019年2月1日施行)を受け、2022年1月2日から高所作業において、一部の安全帯は使用できなくなりました。

その代わりに、新規格におけるフルハーネス型の使用が原則となりました。

今回は、法改正の背景、内容、そして注意点などについてご説明をしていきます。

法改正の背景について

今回の法律の改正は、新しい規格に適合しない旧規格の安全帯は使用不可となり、販売や製造も禁止となっています。

またか…と思う方もいるかと思います。

なぜ新規格への交換が必要で、一人親方や法人の方にもお金がかかる、そのような法改正が行われたのでしょうか。

全産業における死亡災害事故において最も多いものは墜落・転落事故で191名の方が亡くなっています。

死亡災害事故で2番目に多い交通事故(通勤災害含む)が164人ですから、墜落・転落事故による死亡者数が多いことは明らかです。

安全帯は基本的にフックをきちんとかけている場合、ほぼ墜落転落による重大事故は防ぐことができます。

実際に、墜落・転落における災害事故の内95%は安全帯を使用していなかった事故という統計があり、安全帯によってほとんどの墜落、転落事故は防止でることがわかります。近年では安全帯の普及もあり、墜落・転落による災害事故は減少傾向です。

ではなぜ従来の規格による安全帯が今回認められなくなったか。

旧規格における安全帯の普及に伴い、特に高所からの墜落・転落時に【安全帯により胸部や胴部を圧迫し内臓の損傷等により死亡する】などの重大事故が一定数発生しています。

そのことから、今回の旧規格における安全帯の使用禁止という法改正の背景が存在するわけです。

法改正の内容について

では、今回の法律改定についてわかりやすく解説していきましょう。

名称の変更 「安全帯」という名称から「墜落制止用器具」という名称に変更されました

なじみがある「安全帯」という呼び名がなくなります。

ただし、工事現場において「安全帯」の呼称は引き続き利用可能ですので、現場や仲間同士では「安全帯」と言っても問題ありません。

購入したり、現場での安全確認等では「墜落制止用器具」という名前で統一されました。

今後使用できる器具「墜落制止用器具」は、胴ベルト型とフルハーネス型となります。

工事現場で使用できる「墜落落下制止用器具」には法改正で決まりがありますのでご注意ください。

※胴ベルト型
主に腰部周りに帯状のベルトを固定して着用する器具です。
また胴ベルト型には「一本つり」タイプと「U字つり」タイプがありますが、今後は「U字つり」タイプについては使用は認められないこととなります。

※フルハーネス型
肩、腰部、腿など身体の複数箇所でベルトを固定して着用する器具のものです。また両タイプに共通して、新規格でないと使用はできないこととなります。

(厚生労働省 「安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!」(リーフレット)より)

高所における作業時の使用制限について

では胴ベルト型とフルハーネス型、どのように使い分ければいいのでしょうか。

胴ベルト型とフルハーネス型の使い分けは主に作業場所の高さによって定められています。

高さに関しては、6.75メートル以上(建築業では5メートル)で作業する場合は、必ずフルハーネス型の使用をすることとなっています。

また2メートル以上の高さであって、作業床が設置できない場所、電柱などの柱状などでの作業、開口部で囲いや手すりがない場所については同様にフルハーネス型の使用をすることとなっています。

ここで、なぜすべての高さにおいてフルハーネス型の使用が義務付けられなかったかについて簡単に補足いたします。

フルハーネス型は、高所からの墜落時の衝撃を和らげるため、ショックアブソーバー等が長く設定されています。そのため、5メートル以下からの墜落時は地面に到達(衝突)してしまう恐れがあります。

そのため、高所でない一部の作業場所においては胴ベルト型の使用が認められていることとなっております。

ただし、現場において高さが変わるたびに胴ベルトとフルハーネスを付け替えることは現実的とはいえません。

さらに万が一落下した場合、胴ベルト型であると、腰の位置でランヤードが取り付けられているため、身体が折れ曲がった姿勢(いわゆる「クの字」)となり、お腹で自身の体重すべてを支えなければならないといった危険性の観点からも、高所での作業を要する方については今後、フルハーネス型に統一することが望ましいと言えるでしょう。

法改正後の特別教育について

フルハーネス型はただ使用すればいいというわけでなく、装着方法についても複雑なこと、また間違えて使用すると効果が発揮されないことなどから、使用する人を対象に「フルハーネス型安全帯使用作業特別教育」の受講が義務付けられることとされています。

フルハーネス型の使用を想定する人は、必ず特別教育を受講する必要があり、違反した場合、懲役6カ月以下、罰金50万円以下の罰則が設けられています。

講習内容には、学科と実技の2種類の講習

講習内容には、学科と実技の2種類の講習があり、両方受ける必要があります。

・学科:墜落制止用器具、労災、関係法令などの知識に関する教育(4.5時間)

・実技:実際に墜落制止用器具の使用方法を学ぶ実技(1.5時間)

計6時間を要する講習が定められています。
(会場での受講の他、webなどによる講習もあります)

また、条件によっては、講習の一部を省略することができます。

講習の一部省略できる措置

・フルハーネス型を用いて行う作業に6カ月以上の従事経験を有する者

 講習の具体的な内容ですが、以下の講習の半分程度を省略することができます。

・胴ベルト型を用いて行う作業に6カ月以上の従事経験を有する者

・ロープ高所作業特別教育受講者または足場の組み立て等特別教育受講者

※それぞれ1項目を省略することができます。

特別教育ですが、事業者が作業者に対して行い、一人親方で従事する方々は各自が講習を受講する必要があります。

注意点(旧規格と新規格)

ここで気を付けなければならいことが1点ありますのでご注意くださいね。

フルハーネス型に関しても法令改正のタイミングで規格が変更されています。

法令改正施行される2019年2月1日以前に販売されていた製品は旧規格となり、使用ができなくなっています。

ですからフルハーネス型を持っていても使用できるかどうかを確認してください。

現在、お持ちの製品がフルハーネス型であっても、旧規格だったものを装着して業務災害が起きた場合は、労災保険が使えないということばかりでなく、安全管理義務違反に問われる場合があります。

それよりも、自分の身を守るため=元請けや家族、友人知人、仕事仲間を守るということですので、ぜひご確認をお願いいたします。

見分け方

ここでは、新規格かどうかの見分け方として簡単に確認する方法をご紹介します。

下記の1つでも該当するものがあれば新規格となるため、使用は可能となります。

・「墜落制止器具」・「墜落制止用器具」の表示がある

・「ワークポジショニング用器具」・「補助ロープ」の表示がある

・「種類」・「種別」・「使用可能質量」・「最大自由落下距離」・「落下距離」・「製造年月」の表示がある

・新規格には、衝撃を和らげるための「ショックアブソーバー」がついています。

まとめ

法改正の内容について、お分かりにいただけでしょうか。

ここでは、2022(令和4)年1月から法律の改定となった「安全帯」ではなく…「墜落制止用器具」の着用ルールについて簡単に説明しました。
(呼び名については、私も慣れなくてはいけませんね)

実際の業務では、確かにフルハーネス型を装着していると、動きずらいことや作業効率が落ちる、といった事があるかと思います。

自分は絶対落下なんてしないよと、100%確証があれば、このような「法律改定」はありません。実際事故が起きているから、そして今までも危険だから装着をお願いをしても、装備しないもしくは、間違った装着をしてしまっているからこそ、業務災害が発生しいます。

そのような事が続いてしまうと、このような法改正が起きてしまうわけです。

法改定だから仕方ない…ではなく、自分の身を守るんだ、という気持ちになっていただければ嬉しいです。

今一度、普段から使用している墜落制止用器具を点検して、新規格に適合しているかどうかの確認をお願いいたします。

今後も、西日本一人親方部会は、建設現場で働く皆さまにとって有益な情報を提供できるよう頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。