近年、建設・製造・屋外作業を中心に熱中症による死亡災害が後を絶たず、厚生労働省は労働安全衛生規則の改正(厚生労働省令第57号)を行いました。
令和7年(2025年)6月1日から、熱中症対策は努力目標ではなく罰則付き義務となります。

WBGT(暑さ指数のこと)28 ℃・気温31 ℃を超える現場での長時間作業が該当し、違反すれば労働安全衛生法120条により懲役6カ月または罰金50万円以下などの送検のリスクがあります。

総務省ー令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況を見てみよう

近年では日本でも猛暑・酷暑が続き、熱中症における傷病が増加し、救急搬送されるケースが激増しています。
令和5年の5月から9月までの、熱中症における救急搬送状況や傷病内容を見ていきます。

月度/年度令和元年令和2年令和3年令和4年令和5年
5月度4,448データなし1,6262,6883,655
6月度4,1516,3364,94515,9697,235
7月度16,4318,38821,37227,20936,549
8月度36,75543,06017,57920,25234,835
9月度9,5327,0852,3554,9319,193
合計数71,31764,86947,87771,02991,467
令和元年から令和5年(5月度から9月度)熱中症にける救急搬送状況ー消防庁

令和5年5月度から9月度期の熱中症による救急搬送人員の合計は91,467人。調査開始以降、過去2番目に多い救急搬送人員でした。
令和5年は酷暑が長引き、5月・9月が過去2番目です。8月は過去3番目の救急搬送人員でした。

救急搬送年代別内訳

年度/年代新生児乳幼児少年成人高齢者合計
令和元年16348,70724,88437,09171,317
令和2年33295,25321,75637,52864,869
令和3年73594,61015,95926,94247,877
令和4年25667,63624,10038,72571,029
令和5年57969,58330,91050,17391,467
新生児:生後28日未満 乳幼児:生後28日~満7歳未満 少年:満7歳~18歳未満 成人:満18歳~満65歳未満  高齢者:満65歳以上

新生児が一番低く、次いで乳幼児、少年、成人(労働世代)、高齢者と順に多くなっています。

初診時の傷病程度別の人数

死亡重症中等症軽症その他合計
令和元年1261,88923,70145,28531671,317
令和2年1121,78323,66239,03727564,869
令和3年801,14316,46329,75843347,877
令和4年801,63322,58646,41131971,029
令和5年1071,88927,54561,45647091,467

死亡が最も少なく、順に重症(長期入院)、中等症(入院診療)、軽症(外来診療)の順となっています。

令和5年熱中症による救急搬送都道府県別比較
単位 十人
愛知県
5422
三重県
1460
滋賀県
987
京都府
2220
大阪府
5951
兵庫県
3993
奈良県
1182
和歌山県
873
岡山県
1865
広島県
1859

工業都市圏である大阪府、愛知県が断トツに多く、日本国内で東京都が1位、埼玉県が2位となっており、次いで大阪府、愛知県となっています。

西日本労災一人親方部会でも、5月度から熱中症の報告が徐々に増え始め、8月度がピークになります。また、報告が多いのも断トツで大阪府です。

改正ポイントと新たな義務

令和7年6月以降、事業者は「早期発見体制」「悪化防止手順」「周知教育」の3本柱を整備しなければなりません。
ここでは条文の要点を整理し、一人親方と元請けが取るべき対応を解説します。

1.対象となる作業範囲象となる作業範囲

  • WBGT(暑さ指数)28 ℃以上または気温31 ℃以上
  • 連続1時間以上または1日4時間超の作業が見込まれる現場が対象

2.義務①ー早期発見体制の整備

  • 異変を感じた作業者、同僚が即時に報告できる連絡ルートを文書化
  • 連絡担当者名・連絡手段(無線/スマホ)を現場掲示板や朝礼で共有

3.義務②ー悪化防止手順書の作成

  • 作業離脱・身体冷却・医療搬送までのプロセスをフローチャート化
  • 緊急連絡網・搬送先病院の住所と電話番号を併記

4.義務③ー周知と教育

  • 暑熱期前(4〜5月)に全員へ教育・訓練
  • e-ラーニングやクイズ形式で理解度テストを実施

5.罰則と行政指導則と行政指導

  • 労働基準監督署の立入時に書面未整備なら是正勧告
  • 未是正のまま重症事故が起これば送検・公表の可能性大

熱中症対策の記事がありますので、参考にしてみてください。

熱中症にならないための具体的対策

法律は“最低ライン”にすぎません。
ここでは熱中症ゼロを目指す上で有効な実践策を、一人親方・元請けそれぞれの視点で紹介します。

1.WBGT管理と作業計画

  • 1時間ごとにWBGTを測定し、28 ℃未満なら通常作業、28〜30 ℃で作業強度を下げ、30 ℃超で中断とルール化
  • 最高気温がピークの14時前後は重量物作業を避け、早朝・夕方にシフト

2.水分・塩分補給の最適化

  • 作業前500 mL、作業中は15〜20分ごとに100〜200 mLを目安に摂取
  • ナトリウム濃度0.1〜0.2%の経口補水液を支給し、「のどが渇く前に飲む」文化を定着

3.身体冷却と休憩インフラ

  • ミストファン・スポットクーラー・空調服を現場ごとにROI(投資対効果)評価して導入
  • 休憩所は気温より8 ℃以上低い環境を確保し、遮熱シートや断熱材で簡易クールルームを設置

4.短期就労者・外国人労働者への配慮

  • 暑熱順化が不十分な新人には1週間で作業強度を段階的に増加
  • 多言語ピictogram付きポスターを掲示し、症状別セルフチェック表を配布

5.個人装備の最適化

  • 作業服は通気性・吸汗速乾を重視し、色は放射熱を吸収しにくい淡色系を推奨
  • 半導体冷却ヘルメットやアイスベストなどパーソナル冷却ギアを支給
WBGTイメージ図

WBGT測定器

WBGTの指数は「℃」で示されますが、気温の摂氏「℃」ではありません。
あくまで指数表示ですので混同しないようお願いいたします。
また、WBGT測定器は様々な種類があり、ハンディータイプから、設置・据え置きタイプ、壁掛けタイプなどがあります。
価格も安価なものから高価なものまで様々です。
個人でも一台持っていると安心です。

WBGT指数のみ方

WBGT値(指数)のみ方

WBGT測定器で測れるWBGT指数は「℃」ですが、あくまでも「指数表示」であることを覚えておきましょう。
この表のとおり、28℃未満であっても「警戒」値です。
今回の熱中症対策義務化により、WBGT値が28℃以上で業務災害が起きた場合には、懲役6カ月罰金50万円以下、の罰則規定が盛り込まれ、最悪なのは送検される可能性もあることです。

一人親方と元請けの役割分担・連携強化

法令は“事業者”を広く定義するため、一人親方も請負契約の相手方として対策から逃れられません。
一方、元請けは現場全体の安全衛生管理責任を負うため、連携体制を構築することが不可欠です。

1.一人親方が取るべき5か条

  • WBGT計と冷却資材を携行し、現場任せにしない
  • 元請けが用意する体制・手順書を事前に確認し同意署名
  • 体調不良時は直ちに作業離脱し、自己判断で無理をしない
  • 請負契約書に**「熱中症対策費用は別途支払う」条項**を明記
  • SNSや業界団体を活用し、事故事例を共有して教訓化

2.元請けが果たすべき責任

  • 現場横断の統一ルールを策定し、協力会社説明会で周知
  • 下請け・一人親方のWBGT測定データをリアルタイムで集約するICTシステムを導入
  • 法改正後初年度は、第三者機関の安全衛生診断を受け、リスクポートフォリオを見える化

3.共同でできるコストダウン

  • 長期工事では自治体の熱中症対策補助金を活用して経費を圧縮
  • 大型冷却機材を共同購入またはリースし、現場間でシェア

準備チェックリスト&実践スケジュール

最後に、改正省令施行までのタイムラインとチェックリストを提示します。記事を印刷して現場で貼り出し、進捗管理にお役立てください。

1.タイムライン

時期やること完了欄
4月上旬責任者指名・WBGT計手配
4月中旬手順書ドラフト作成・掲示
4月下旬教育資料作成・テスト
5月上旬ロールプレイ訓練
5月中旬冷却設備設置・動作確認
6月1日本運用スタート

2.必携テンプレート

  • 連絡フローチャート(A3横/PDF)
  • 悪化防止手順ポスター(イラスト入り/多言語対応)
  • 教育用スライド(全30枚/クイズ5問付き)

3.自己点検10問(○×方式)

  • WBGT計を作業場所ごとに1台以上設置し、1時間ごとに測定している。
  • WBGT値が28 ℃を超えた際は、作業強度の軽減・休憩時間の延長など具体的な行動基準を定めている。
  • 異常を感じた際の連絡担当者と連絡手段(電話/無線など)をポスターやヘルメットシールで明示している。
  • 熱中症発生時の悪化防止手順(離脱→冷却→医療搬送)がフローチャートで掲示されている。
  • 氷嚢・ミストファン・スポットクーラーなどの冷却資材を、作業地点から100 m以内に常備している。
  • 暑熱期前(4〜5月)に全作業者へ年1回の教育・理解度テストを実施している。
  • 新規就労者や短期就労者には、暑熱順化のため1週間かけて作業強度を段階的に上げる計画を組んでいる。
  • 外国人労働者向けに、多言語(英語・ベトナム語など)の注意喚起ポスターやeラーニング教材を用意している。
  • 休憩所は外気温より少なくとも8 ℃低く保たれ、扇風機や遮熱シートで快適性を確保している。
  • 熱中症や前兆症状の発生状況を月次で記録・分析し、翌月の対策に反映している。

項目以上○ならおおむね良好、5〜6項目○なら要改善、4項目以下○なら早急なテコ入れが必要です。

まとめー“熱中症ゼロ”は競争力

改正省令は「守るべき最低基準」にすぎません。対策を徹底する現場は、職人の定着率向上・工期短縮・ブランド価値アップなど経営メリットも享受できます。
一人親方は「自己防衛+情報共有」、**元請けは「全体最適+費用支援」**をキーワードに連携し、2025年の暑熱期を安全・快適に乗り切りましょう。

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参考文献
厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」リーフレット
改正省令全文(厚生労働省令第57号)(総務省)
令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況
熱中症対策が強化されます(岡山労働局)
STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(岡山労働局)
労働安全衛生規則改正解説ページ(鹿児島労働局)
職場における熱中症対策の強化について(富山労働局)

暑さ指数を指す「WBGT (Wet Bulb Globe Temperature) 」とは

暑さ指数[WBGT:湿球黒球温度]は、1954年にアメリカで提案された指標のことで、熱中症を予防することを目的した指標です。 暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとりに着目した指標であり、 湿度・ 日射などの熱環境、 気温の3要素を取り入れた指標です。 気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、全く別のものです。各情報源で、内部気温が28℃以上など表現しているところもありますの十分お気を付けください。