一人親方の労災保険へご加入時(お申込み)に必ず「特定業種ではありませんか」と何らかの形で記入するようになっているかと思います。

ここでいう特定業務とは何か?そして、特定業務と通常業務では、加入時に何が違うのかを説明していきましょう。

一人親方の特定業務

ここでいう「特定業務」とは、特別加入時(一人親方労災保険へ加入すること)に特別加入のための健康診断が必要な業務をしている方という意味です。

また、国土交通省が表記している特定建設業とは意味が違うのでご注意ください。
そして、一人親方が国民健康保険や、健康保険組合で毎年行っている健康診断とも違います。

よく、「毎年健康診断に行っているからそれで大丈夫ですよね」というお話をお聞きしますが、その健康診断は特別加入時には使用できません。

毎年の健康診断の結果を、元請け様へ提出しているか思いますがそれも使用できません。

特別加入制度の労災保険へ加入時に、厚生労働省が指定している「健康診断が必要な業務」に従事している方という意味です。

では、加入時に従事している健康診断が必要業務とは何でしょうか?以下を参考にしていきましょう。

粉塵作業を行う業務

特別加入希望時から数えて「3年以上」の従事期間がある方が対象となります。

例1.2020年4月1日に加入希望

  • 2017年4月1日から粉塵作業をしている方
    3年以上の業務履歴があるので特定健康診断が「必要」です。
  • 2017年5月1日から粉塵作業業をしている方
    2年11カ月の業務履歴で3年経過していないので、特定健康診断は「不要」です。

あくまで、業務履歴が継続して3年以上あるか無いかで判断していきます。

粉塵作業を行う業務の具体的な例

  1. 主として岩石、又は鉱物を裁断し、掘り、又は仕上げをする場所における作業
  2. 研磨材の吹き付けにより研磨をし、又は研磨材を用いて動力により岩石、鉱物、もしくは金属を研磨し、もしくは、バリ取りをし、もしくは金属を断裁する場所における作業

法律用語は難しいですね。解説していきましょう。

①岩や石や鉱物(鉄など)を切ったり掘ったり綺麗に仕上げをする「場所」で作業する方です。木材の加工や断裁や仕上げは一切含まれません。
岩や石や鉱物以外の材料を使用する方は含まれないということです。

②研磨材の吹き付けや機械を使って岩や石や鉱物、そして金属(鉄やコンクリートなど)を研磨したり、バリを取ったり、金属を切ったりする「場所」で作業ををする方です。
ですから、先ほどと同じく、木材加工などは一切含まれません。

では一般的にはどのような業務の方かですが、石工業務や、はつり工業務の方です。解体工事の方も「岩・石・コンクリート・鉄」などを重機で解体する場合には粉塵が出ますので、粉塵作業を行う業務となります。

※じん肺法施行規則別表(じん肺法第2条関係)に定める業務

安全衛生情報センター
じん肺法施行規則別表

電子政府の総合窓口
じん肺法第2条関係

振動工具を用いて行う業務

特別加入希望時から数えて「1年以上」の従事期間がある方が対象となります。

例1.2020年4月1日に加入希望

  • 2019年4月1日から振動工具を用いての作業をしている方
    1年以上の業務履歴があるので特定健康診断が「必要」です。
  • 2019年5月1日から振動工具を用いての作業をしている方
    9カ月の業務履歴で1年経過していないので、特定健康診断は「不要」です。

あくまで、業務履歴が継続して1年以上あるか無いかで判断していきます。

振動工具を用いて行う業務の具体的な例

  1. 林業の一人親方(木材の伐採の作業に従事する者)
  2. 建設業の一人親方(掘削工・はつり工など常時振動工具を用いて業務を行う者)

こちらはわかりやすいですね。解説していきましょう。

①読んで字のごとく林業の方です。林業の場合はチェーンソーの動力を使う方は必須となります。

②建設業の方は使用する道具に関係してくる作業です。その道具は多岐にわたりますので、下記を参考にしてみてください。

※振動工具から外すものの例
電動ハンマー・コンクリートバイブレーター・サンダー・バイブレーションドリル・インパクトレンチ・バイブレーションシャー・ジグソー・卓上研磨版・卓上用研削版

では一般的にはどのような業務の方かですが、掘削工や石工、はつり工、解体工などです。振動工具で解体や切断、バリ取りなどを行う業務の方は、下記の「厚生労働省-振動工具一覧表」を参考にしてみてください。

※厚生労働省 振動工具一覧参考

厚生労働省
振動工具一覧表

有機溶剤または有機溶剤含有物を用いて行う業務

特別加入希望時から数えて「6カ月以上」の従事期間がある方が対象となります。
ただし、あくまで「屋内における有機溶剤の使用」に限りますので、屋外、例えば「外壁塗装」や「屋根塗装」などの屋外業務であれば、加入時の健康診断は必要ありません。

例1.2020年4月1日に加入希望(屋内塗装・閉鎖された空間での有機溶剤使用塗装工事)

  • 2019年11月1日から有機溶剤を用いての作業をしている方
    6カ月以上の業務履歴があるので特定健康診断が「必要」です。
  • 2019年12月1日から有機溶剤を用いての作業をしている方
    5カ月の業務履歴で6カ月を経過していないので、特定健康診断は「不要」です。

あくまで、業務履歴が継続して6カ月以上あるか無いかで判断していきます。

有機溶剤または有機溶剤含有物を用いて行う業務の具体的な例

  • 建設業の一人親方が主として「屋内において」有機溶剤含有物を用いて行う塗装の作業

勘違いしやすいので解説していきましょう。

塗装関連の作業で有機溶剤を使用しているから必ず特別加入時の健康診断が必要だと思っている方は多いかと思います。実際そのように思いますよね。

しかしながら、こちらをよく読んでみると「屋内において」て記載されています。

つまり、屋外だけで行う作業の方は除くということです。確かに少ないかとは思いますが、定義としては「屋内において」ということになります。

有機溶剤中毒予防規則の対象となる有機溶剤は全部で54種類あります。また、有機溶剤等とは、有機溶剤または有機溶剤含有物(有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤の含有率が5%を超えるものです。

有機溶剤の特性として「ほかの部室を溶かす性質」があります。常温では「液体」一般的には揮発性が高いので、蒸気となって作業者(一人親方)の呼吸を通じて体内に取り込まれやすく、また油脂に溶ける性質があることから、皮膚からも吸収されてしまいます。
有機溶剤を使用した建築・建造物に居住等する人にも影響を及ぼす可能性があります。

建設業でいう一般的な有機溶剤業務とは、有機溶剤を使ってのつや出しや防水その他物の面の加工・接着するための塗布や塗布されたものの接着・洗浄や払拭・塗装・乾燥・有機溶剤が塗布されたタンクや屋内のように内部で行う作業とされています。

最近では、有機溶剤と同等の性能を持つ水性塗料が使用されるようになってきました。
建築、建造物に居住する人の健康も気づかってのことでしょう。

第一種有機溶剤

特に危険度が高いもの
クロロホルム・トリクロルエチレン・二硫化炭素・四塩化炭素・ジクロルエタン(別名:二塩化アセチレン)・テトラクロルエタン(別名:四塩化アセチレン)等々

第二種有機溶剤

中程度の危険性だがよく使用されるもの
アセトン・イソプチルアルコール・イソプロピルアルコール・イソペンチルアルコール(別名:イソアミルアルコール)・エチルエーテル・キシレン・クレゾール・クロルベンゼン・酢酸イソプチル・酢酸イソプロピル・酢酸ノルマル-ブチレル・酢酸メチル・シクロヘキサノール・ジクロルメタン(別名:二塩化メチレン)スチレン・トルエン・ノルマルヘキサン・ブタノール・メタノール等々

第三種有機溶剤

危険性は低いとされていますが取り扱いには注意が必要とされるもの
ガソリン・コールタールナフサ(別名:ソルベントナフサ)・石油エーテル・石油ナフサ・石油ベンジン・テレビン油・ミネラルスピリット(ミネラルシンナー・ペトロリウムスピリット・ホワイトスピリット・ミネラルターペン含む)

有機溶剤中毒予防規則の対象となる有機溶剤は全部で54種類あります。また、有機溶剤等とは、有機溶剤または有機溶剤含有物(有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤の含有率が5%を超えるものです。

厚生労働省の有機溶剤の種類と区分を参照にしてみてください。また、わからない場合には溶剤の収容缶や容器に記載されていますので、参考にしてみてください。

厚生労働省
有機溶剤の種類と区分

まとめ

一人親方の労災保険へ加入する際に、上記で述べた3業務に従事する方、そしてその従事期間によっては、特別加入時の健康診断を受けなけらばなりません。

この申請を怠り、健康被害により業務災害が起きたとしても補償されない場合がありますので、自分はそうかもしれないと思った親方様は、必ずご相談ください。

西日本労災一人親方部会では、特定業務の方の場合の加入は以下の通りとなります。

  1. お申込みとご入金が確認取れ次第「仮加入申請手続き」を行います。
  2. 労働保険番号・整理番号・有効期限を「当日」に発行します。
  3. 仮加入は「最短翌日」、加入証明書は郵送でお手元にお送りします。
  4. 無料で「特別加入時健康診断申出書-特診様式第7号」を作成し、管轄の労働基準監督署・労働局へ申請します。
  5. 労働局から西日本労災へ「特別加入時健康診断指示書一式-特診様式第5号一式」が届きます。
  6. 必要事項を記載して、仮加入した会員様へ郵送します。
  7. 書類一式が届きましたら指示書記載の「指定病院」へ予約を取り、書類一式を持参し健康診断を受診します。
  8. 書類一式と健康診断結果は、病院から労働局へ送られます。
  9. 診断の結果、問題なければ「本加入」となりそのまま加入証明書が使用できます。
  10. 診断を受けなかった、もしくは診断結果が加入不受理となった場合には、労災保険への加入はできません。

不受理となり、労災保険へ加入できなかった場合にも「加入料金」の返還はできません。
お判りいただけたかとは思いますが、これだけの手順の作業を行っていきますので、ご了承ください。
また、特別加入時の健康診断は、加入する親方様にとってもかなりの手間と時間をいただきますので、継続的な加入をお勧めいたします。

特別加入時の健康診断は、加入の受理・不受理に関係なく、すべて無料。自己負担は一切ありませんのでご安心ください。